日本政府は侵略の歴史の歪曲を中止せよ!
「歴史とは、現在と過去との対話である」という歴史家E・H・カーの言葉に象徴されるように、過去と現在は切り離されるものではなく、過去を正しく見る眼がない限り、現在を正しく見る事はできない。
また学校教育というものは、その国の将来を担う人材育成の最も中枢であり、そこで使用される教科書は、執筆者の個人的な知識や思想ではなく、その国の知識と思想そのものであると言えよう。
以上の観点に立つ時、最近の歴史教科書の検定をめぐる日本政府の動きは看過できない。
2002年度から使用される中学校の歴史教科書の検定申請をした7社のうち6社が、朝鮮人強制連行と独立義兵闘争、南京大虐殺、日本軍「慰安婦」問題などを削除、あるいは縮小した内容に変わっている。これは過去の歴史を正しく見る眼からの大きな後退である。
さらに「新しい歴史教科書をつくる会」(会長・西尾幹二電気通信大教授)が中心になって執筆した教科書が、初めて検定を申請した。
日本帝国主義が36年間にもわたり、朝鮮を植民地支配し、土地を奪い、文化を奪い、言語や名前までも奪い、民族の尊厳を徹底的におとしめ、筆舌に尽くしがたい苦しみを与えた事は厳然たる事実であり、7千万民族がその証人である。その生き証人の中に当然私たち在日同胞も含まれる。にも拘わらず、徴用などの強制連行を単純な「人力動員」とし、日本軍「慰安婦」などに関しては一切記述せず、韓日併合を「東アジアを安定させる政策として、欧米列強から支持され」「当時としては、国際関係の原則にのっとり合法的に行われた。」と記述している。悪意的な歴史の歪曲である。
加えて南京大虐殺を「ナチスによるホロコーストのような種類のものではない」とし、日本軍が中国民衆20万人を虐殺したと東京裁判で認定されたことについても「その時の南京の人口は20万人で日本軍攻略の1ヶ月後には25万人に増えている」と逆に疑問を呈している。犠牲者にムチ打つ行為は、歴史の歪曲を超えて犯罪である。遺家族の思いたるや怒髪天を衝くものではないだろうか。その執筆者の思想性と人間性を疑わざるを得ない。
そのような教科書を、日本政府は不合格にせず、親切にも137ヶ所をも修正して検定に合格させた。
さらに、その問題の教科書を広く普及しようと産経新聞を中心とした右翼言論も一緒になり、各地方議会に対して陳情し請願運動を行い、百余の市町村議会が「新しい歴史教科書採択」請願を決議し、現在審議中の議会も多いという。
これは、わが民族とアジア民衆の尊厳に対する重大な侮辱である。
戦後補償を誠実に行わないまま、一昨年日本政府は、「日の丸」「君が代」を法制化し、新ガイドライン関連法案を通過させた。そして今年、「大東亜戦争はアジア国家独立の助けになった。」と発言した野呂田衆議院予算委員長(元防衛庁長官)を辞任させる事なく、歴史教科書の歪曲を推進している。
昨年1月、長く親日路線をとってきたシンガポールが、中学から教えていた過去の侵略の歴史を「暗黒の時代」として小学生から教える事になったという。また今年の2月末、ソウルでは野呂田氏のワラ人形が炎につつまれた。「日本が再侵略の夢を追っている。」というアジア民衆の警戒心を杞憂だと一笑に付す事ができるだろうか。
現在、大阪には外国人が約20万人住み、その8割が在日同胞である。その在日同胞の子女の8割が日本の学校に通っている。1世2世が直接的な日本帝国主義の被害者である上に、その子ども達までが、学校で親の歴史を歪曲されるならば、第2の被害者となり、精神的な虐殺である。
うその「新しい歴史」をねつ造しようとする事は、日本人だけに真実を虚構だと教える事になり、日本の将来にとっても不幸な事である。また21世紀を戦争のない平和な世紀にしようという全人類共通の願いとも反するものである。
現在を生きる私達は、過去を主体的にとらえる事なしに、未来への展望を持つことはできない。
日本政府は歴史の歪曲を即刻中止しなければならない。