◆コ ラ ム◆

焼 徴 戚 十−朝 露

 小説「21世紀への一番星」

 東京は、神田の一角、夕食時に似合わず、テーブル席が空いている。

 「お客さん、何にしやす?」「きつねうどんください」・・・「うちは、蕎麦屋だよ」、・・・何の事だか分からず、再度注文を繰り返した。「すいませーん。きつねうどんください」・・・「うちは蕎麦屋だっつってんだろ!、うどんが食いたきゃ立ち食いでも行ってくんな!」、パチンとニューロンが攻撃モードをクリックしてしまった。一呼吸置いて今自分が置かれている状況を整理した。「ちょっとあんた、蕎麦屋でうどん注文したらあきまへんのかいな、うどんが無いなら無いで、そうゆうたらええがな?」、おもいきりの関西弁に自分も店の主人もたじろいだ。「これだから素人はいやだってんでぃ!、蕎麦屋でうどんを売るような蕎麦屋は蕎麦屋じゃねえってんでぃ、こちとら神田で三十年の老舗でぃ、通天閣のとーしろうに馬鹿にされる覚えはねえってんでぃ」。客達の汁をすする音が止んだ。聞こえるのは有線放送。何を勘違いしたのか、蕎麦屋には似合わない「これが私の生きる道」であった。

 相手の反撃を受けながら、次の攻撃モードを選択しなければならない。冷静モード、大声モード、揚げ足モード、撤退モード、捨て台詞モード、そして破壊モードである。ルーレットは冷静モードを選択した。「おじさん、大阪ではほとんどのお店で蕎麦もうどんも売っています。おじさんがそこまで蕎麦にこだわっているのは、きっと蕎麦が大好きだからだと思いました。ポリシーを持って蕎麦を売るということはそれほど簡単なことではないと思います。私は、おじさんが今まで、大切にしてきた蕎麦をバカにするつもりはありませんでした。ただ、きつねうどんが食べたかっただけなのです。とにかくおじさんがきつねうどんを注文されて傷ついたのであれば、謝罪します」主人は、予期せぬ対応に返す言葉を失ったようであった。「・・・。」、私はなだめるように続けた。「おじさん、貴方が蕎麦を愛するように、讃岐の人たちはうどんを愛しています。貴方も、今までの人生を振り返って、きっと多くのものを愛してきたことでしょう。蕎麦を愛する人がどうしてうどんを愛することができませんか?そばもうどんも太陽の光を一身に受け、育った大切な大地の恵みではありませんか?。人は真っ白なキャンバスを持ってこの世に生を受けるといいます。小さな子供たちに虹色の絵の具を与えてあげましょう。アカは駄目だ!、黒は駄目だ!と言わず。愛する子供たちの小さな手に持ちきれない色の絵の具を与えてあげましょう」店の主人は、うっすら涙ぐんでいるようであった。これ以上続けると主人の目から大粒の涙がこぼれそうな気になり、話を止めた。その時である。客の一人が立ち上がり、拍手をした。他の客も汁をすする手を休め、つられて拍手をした。店中が拍手に包まれたのである。私は静かに店を出た。まだ空は明るい。何気なく祖国の空へ目を向けた。昼間の雨のせいか一番星が空に輝いていた。

 21世紀! 子供たちに、持ちきれない絵の具を与えるのは、私達です。読者の皆さん!、今世紀もよろしく!!